コラム

<チャンピオンドワーフシリーズ3>夏期の管理

フェアウェイやティのコウライやラフのノシバが順調に芽出し、グリーンの管理作業が目白押しになる季節でしょう。チャンピオンドワーフなどのウルトラドワーフをグリーンに採用されているコースでも、夏場の最盛期に向けての病害虫防除をはじめ、更新作業や目砂散布等の重要な維持管理作業が計画される時期です。

梅雨明けから盛夏にかけて気温の上昇等に比例し芝の品質はどんどん良くなる季節です。

 

チャンピオンドワーフ夕映え

夕映えのするチャンピオン ドワーフ

葵CC20160807

ベントグリーンと勘違いするくらいのクオリティー

中京地区で初めてのチャンピオン ドワーフ採用地 葵カントリークラブにて 2016/8/7撮影

7~9月の時期は、降雨後に葉枯れ性病害が発生しやすく、高温性のピシウム病とも併発しやすいので注意が必要です。葉枯れ性症状しか見られない場合でも、ピシウム菌が介在しているとなかなか防除できないことがあります。

フェアリーリング病もこの時期に発生すると乾燥害を伴うことが多く、なかなか回復しない傾向があります。浸透剤を併用し、殺菌剤を用いて予防散布しておきましょう。発生してしまった場合は、スパイキング等を行い、散布水量を充分に確保し、なおかつ浸透剤を加用して治療効果のある殺菌剤を施用すると効果が高くなります。

 

害虫ではシバツトガがこの時期よく発生します。

芝の生育旺盛な時期ですので、病虫害からの回復にはそれほど時間を要しません。

曇天+高温多湿条件下では地上部が徒長をおこしやすいため、植物成長調整剤を用いて軟徒長を抑制することが重要です。

 

米国でバミューダグラスに発生が確認された病害一覧

病害一覧

 

葉枯れ性病害初期症状

葉枯れ性病害初期症状

2015年7月6日撮影

葉枯れ性病害に罹病した根茎

葉枯れ性病害に罹病した根茎

羅病した芝の根茎(左)は黒っぽく変色しているのに対し健全芝の根茎(右)は白い。

2015年8月3日撮影

ピシウム病+葉枯れ性病害

ピシウム病兼葉枯れ性病害20141007

2014年10月7日撮影

葉枯れ性病害・ピシウム性病害の併発状況

葉枯れ性病害兼ピシウム性病害の併発状況

併発すると防除が困難となり、なかなか止まらない。

2015年7月7日撮影

ドレクスレラ葉枯病(左:概観、右:接写)

ドレクスレラ葉枯病

フェアリーリング病(左:生育期、右:冬季休眠期)

フェアリーリング病

高温性ピシウム病(左:初期症状の概観、左:空中菌糸の接写)

高温性ピシウム

高温性ピシウム病

高温性ピシウム病

害兆が進行した状況(スプリンクラーで拡がった)

2015年11月2日撮影

スーパーフィシャルフェアリーリング病

スーパーフィシャルフェアリーリング病

2013年07月29日撮影

バミューダグラスマイト(バミューダグラスに発生するダニ)

バミューダグラスマイト

2014年08月28日撮影

原因不明の黄化

原因不明の黄化

2014年8月19日撮影

7~9月のチャンピオン ドワーフの管理の要点

  • 夏の管理(施肥・刈込・植物成長調整剤・スパイキング/コアリング・目砂・潅水・浸透剤)
    • 施肥:基本的には生育量にあわせた施肥を行うが、天候不良等によって旺盛過ぎる生育量にならないよう若干低めに施用する方が賢明
    • 刈込:グルーマーやローラーを併用しながら刈高を3mm程度に維持する
  • 植物成長調整剤:
    • 地上部の生育抑制、密度やボールの転がりが向上する等の効果が期待できる
    • 梅雨が明けるまでは曇天が続くため、軟徒長を抑制し、軸刈り防止目的で施用する
    • 梅雨明け後も曇天+高温という気象条件が続くと葉が徒長し、葉幅も広くなるため、施用量を徐々に増やしながら継続的に散布する
    • 生育が旺盛になるほど施用量を増やし、施用頻度も高くする
  • スパイキング/コアリング:
    • 生育が旺盛にする直前に実施すると作業後の穴の埋まりが早い
    • 無垢刃のφ6~9mm程度を用いてスパイキングを行い、通気性・浸透性向上を図る
    • 未分解のサッチが過剰である場合は、品質・生育量・回復性を考慮しながらφ9~12mm程度の中空タイン等を用いてコアリングをする
    • 作業後の穴の埋まり具合と更新率を考慮して、タイン径や種類(十字、ムク、中空等)を選択する
  • 目砂:
    • 頻度良く定期的(2週に一度程度)に薄目砂を実施するほか、スパイキングやコアリング時には適当量の目砂を施す
    • 芝の生育量が充分旺盛な時期であるため、わざとスパイキングの穴を完全に埋め戻さないこともある
  • 潅水:
    • 芝の要求量や蒸散量に合わせて潅水プログラムを調整し、水量や頻度を上げる
    • 梅雨の後期に当たる時期やゲリラ降雨が予想されるときは潅水プログラムを変更して水量や頻度を下げ、土壌水分過剰や嫌気的状態にならないように注意する
    • 高温期は特に芝葉面からの蒸散量が激しいため、マウンドやピンポジション付近に乾燥害を起こしやすいので注意する
    • ドライスポットが発生してしまった場合やフェアリーリング病の部分的枯損対策のために、浸透剤を添加してスポット散水を行う
  • 浸透剤:ドライスポットやフェアリーリング病対策以外にも、急激な乾燥や突然の豪雨対策のためにも最低でも1か月に一度、できれば2週間に1度程度は施用しておく

 

  • 病害対策:

葉枯れ性病害・高温性ピシウム病・フェアリーリング病・テイクオールパッチ・炭疽病などさまざまな病害が発生する時期。盛夏時に発生する病害は対処方法で完治させることが出来るが、9月後半以降に発生した病害跡は翌春以降の生育期まで残ることが多いため、「全く発生させないくらいの気持ち」で対応するほうがよい

  • 葉枯れ性病害:
    • ヘルミントスポリウム葉枯病、バイポラリス葉枯病、ドレクスレラ葉枯病、ネクロティックリングスポットなど色々な菌が良く似た病徴を示す。
    • ヘルミントスポリウム葉枯病とネクロティックリングスポットは頻繁に発生しやすいため、日頃から発生が無いかこまめにチェックする
    • 登録のある殺菌剤は比較的多くあるので同系統の殺菌剤を連用せず、ローテーション使用する
  • ピシウム性病害:
    • 病害発生前予防散布には予防効果のあるピシウム剤をローテーション使用する
    • 達観上ピシウム病が発生していないように見えても、ピシウム菌が他の病害に複合感染している可能性があり、防除対象病害が止まらないケースが多い。そのため、病害発生後の治療目的の散布には治癒効果のあるピシウム剤を加用する
  • フェアリーリング病:
    • 春先から晩秋にかけて発生が見られるが、入梅から梅雨明けまでの湿潤な期間に旺盛に生育し菌密度が上がり、その後の高温+乾燥によりリング周辺部の芝が褐変枯死することがある
    • 病徴部分をスポットでスパイキングを施し、効果のある殺菌剤に浸透剤を加用し、更に水量を確保して散布すると効果が高まることが多い
    • 一度発生すると同じ場所に繰り返し発生することが多いため、発生個所をマップ上に記録しておき、初期症状を確認したら早めに防除をする
    • 小実体(キノコ)が地上部に現れたら放置せずに取り除き、胞子が拡散しないようにする
  • テイクオールパッチ(バミューダグラスデクライン)
    • テイクオールパッチの菌は高温期から低温期(秋から冬)にかけて、或いは低温期から中温期(春先)にかけて活動が活発になる
    • 高温期に発生した場合はテイクオールパッチと呼ばれ、中低温期に発生するものはスプリングデットスポットを引き起こす病害の一つとなるようだ
    • 難防除の病害の一つに挙げられる病害で、放置すれば深刻なダメージを及ぼす
  • 炭疽病:
    • これまで顕著な実害はあまり観察できていない

 

  • 害虫(シバツトガ・スジキリヨトウ・タマナヤガ・コガネ類、まれにケラ/線虫):

大発生しない限り甚大な被害とならないことが多いがツトガやケラに関してはグリーンサーフェスの品質(見た目)が低下する

  • シバツトガ: グリーン上でツトが確認できた段階で、スティンガーなどを用いて防除する
  • コガネ類: 幼虫の摂食活動が盛んになる7~8月に、タフスティンガーを用いてシバツトガとの同時防除も考慮する
  • ケラ: 4~6月にかけてと9~10月頃によく見られる。湿潤な環境を好むが、周りの床土も砂地であるところに被害が多い。理由は食害と移動に伴って形成される通路が乾燥することによる。グリーン表面に稲妻のような侵入孔(移動の通路跡)が付くので判別は容易。個体数が少なくても一個体当たりの移動距離はかなり長いため、高温乾燥期には被害が大きい。小発生なら有機リン系殺虫剤などでスポット防除し、個体数が多いようならグリーン周辺部も広めに防除する。浸透剤を定期的に使用あるいは薬剤散布時に加用していると自然に防除できていることが多い
  • 線虫: 顕在するはずであるが日本では被害を起こした例は数例のみ(米国では芝登録薬剤が存在するが残念ながら現在日本では芝登録薬剤がない)

 

  • 藻類:
    • 過剰散水を行うと発生を助長する
    • 効果のある防除剤やミネラルを施用して藻類の生育を抑制する
    • 多発生した場合は地表面を覆い土壌通気性が悪くなるのでスパイキング等にあわせ目砂を施す

 

  • 土壌分析:生育量が若干低下する頃(9月の下旬以降)に再度土壌分析を行い、土壌残留養分量の把握に努め、止め肥量の計画あるいは翌春以降の施肥設計に生かす(晩秋施肥後に行う場合もある)

 

<参考文献>

Managing Bermudagrass Turf 2002年度版 (L. B. McCarty and Grady Miller)